Smeh liya Morocco - スマヒリヤ・モロッコ

モロッコ駐在生活のことを中心に、色んなことを書いてます。

【つぶやき】ネオン

ずいぶん前に、親が熱帯魚を飼っていたことがあった。

「ネオンテトラ」という名前の小さな魚は、青白い体を光に反射させて、
ぐるぐると水草の中を泳いでいた。

その時の自分はその巨大すぎる水槽に、贅沢にも設置されたフィルターと
美しい流木と、手に入れるのが難しいらしい高価な水草を眺めていた。

苔の駆除要員として加えられたタニシたちが、懸命に壁を登っていたり、
小さいエビの仲間らしい生き物が、せわしなく水の中を行ったり来たりしている。


次第に、親が飼育に飽きて、

みるみるうちに水が濁り、苔が放置されて、

ネオンテトラがどんどん死んでも、やがて水槽が粗大ゴミになっても、

私は、水を眺めることをやめなかった。

水槽がないのなら、プールに泳ぎに行こうかな。
それとも、近くの淀川でも見にいけばいいか。

ああ、別にむしろ、グラスに注がれるワインとか、
雨漏りを受け取るバケツに落ちるしずくとかでもいいや。

液体が引き起こす、波の「ゆらゆら」が心を安らげてくれるような気がするからさ。


水中に身を投げ出して、ふと水面を見上げたときに顔に刺す陽の光が、
カーテンみたいにフワフワしながら漂っている

そんな残像がいつまでも残っている。

それはもう夜も更けた街の中で

回送電車が横切った。誰も乗っていない暗い車内が不思議だった。


湿気た空気に包まれた熱帯夜

空っぽの道路を突き抜けて、通天閣の真下をくぐり抜けて

昼間に焼けたコンクリートの余熱を感じる。


闇に沈んだ街

沈黙だけが漂う河原

誰もいない道頓堀で、大量の巨大看板だけが場違いなくらい輝いている。


そういうものを、私はその眼で捉える。捉えて、脳裏に焼きつけて、

それは記憶になる。

写真のような残像が、感情が溢れた時に戻ってくる。

濁った川に映る赤や青の光が

波に溶けてゆらゆら揺れている

まるでネオンテトラが生まれ変わって、そのまま水面を全部呑み込んじゃって、色づいたような、

そういう感じがする。

「ああ、なんて綺麗なんだろう」ーーみたいな感情はちっとも浮かばないんだけど、

ただ、なんとなく安らぐ。ただ、ぼんやりその優しく不規則な振動に魅入っている。

思考は鈍くなり、眠くなり、微睡んでいて、

明るいのかも暗いのかもわからずに、ただ白昼夢に陥ったかのよう。

悲しい感情、嬉しい感情、

そういうものってネオンみたいだ。

色んな色に、不規則に変わる、水に映る光みたい。


人は生きた後に死んでしまうけれど、

生きているほうは、お別れに涙を流すけれど、

悲しいが溢れて、忘れていたことをたくさん想い出すけれど。


涙も、心もこんなにゆらゆらするんだなって、いつしか、わかるようになってきた。

それらは、見ていて、すごく綺麗だな。

なんて思う。

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Sénégal