Smeh liya Morocco - スマヒリヤ・モロッコ

モロッコ駐在生活のことを中心に、色んなことを書いてます。

空腹、夕闇、甘味。

ラマダン月は、陽が昇っている間人々は一才水を飲まず、食べ物を口に入れない。
ムスリム(イスラム教信者)にとって、一日5回の祈りと日中の断食は、信仰を深める大切な儀式だそう。

とあるイベントで初めて、「フトゥール」と称される、陽が沈んだ後の1日で初めての食事を振る舞っていただいた。

長い断食を終えた後に初めて胃に入れるのは、水、ゆで卵、デーツ。
甘いお菓子と、塩辛い春巻きや炒めた肉を挟んだパンやらが、円卓に隙間なく並べられてく。

人々は空腹の中それを見つめ、19:00ちょうどを無我夢中で待っている。
腕時計を見て、空を仰ぎ、「ああ、あと数分」、と呟く。

その時間になると、あちこちのモスクから「アザーン」が流れる。神は偉大なり、という言葉から始まる歌うような声。
祈りの時間に流れる放送だが、もしかするとあの時間に聞こえるのは、1日の断食が終わった合図なのかもしれない。

すると同じ円卓に座っていた人が、慎ましやかに、しかし待ち侘びたように、グラスの水を一気に飲み干す。
身体の渇きを満たし、しばらくして、(大半が、卵やデーツではなく)とにかく甘そうなクッキーや塩辛い春巻きに手を伸ばし始める。

「断食をするから、食事のおいしさが身に沁みてわかるのよ。」

ハリラというスープが振る舞われ、私たちはクッキー片手にその塩味の強いトマトスープを平らげる。

フルーツジュース、ミントティーが次々に配膳され、空っぽの胃を満たしていく。
甘味によってぶち上がる血糖値など気にせず、炭水化物ばかりで野菜が見当たらない「ご馳走」を黙々と平らげていく人々に驚きながらも、一つ一つの料理が美味で、自分もまた黙々と食べた。

しばらく食べると、また空を仰ぎ、幸せそうな表情。
腹が満たされるとは、本当にありがたいことだと言わんばかりの表情。
1日ファスティングをして、「空腹」を感じた後の、本当の「満腹」がやってくる。


「一度だけでもやってみるといいよ」
円卓で隣に座ったモロッコ人に、そう言われた。
空腹という苦痛を知るからこそ、満腹という幸福感を味わうことができる。
そんな教訓を国規模で行うモロッコ。国教があるというのは、興味深いと感じた満月が少し欠け始めた美しい夜だった。