Smeh liya Morocco - スマヒリヤ・モロッコ

モロッコ駐在生活のことを中心に、色んなことを書いてます。

グアナカステの木の下で

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淹れたての珈琲を手に、バルコニーに出る。
ハチドリの声と、リスが木の上を滑るように走る音。
バイクが坂を登るエンジン音に混ざって、大家さんファミリーの笑い声も響く。
お隣さんが、私にスペイン語で話しかける。聞き慣れない音だけど、少しずつ意味がわかるようになってきている。

家を出て街に向かう途中、森のさわさわした音や、知らない鳥たちの声がする。
空を見上げると、飛行機が飛んでいる。青い空に書き殴ったような白い雲。

長い旅の後、Ciudad Colonに帰ってくるとホッとする。
小さくてのどかな街に居場所があることを、嬉しいなと思う。

DEPARTURE

月曜日の朝4時。まだ空は夜に沈んで真っ暗だった。

昨晩から全く寝付けないままの疲れ果てた身体を無理矢理起こして、
5日分の服とカメラと長靴を抱えてバス停へ向かう。

「ろまんす」で書いた友達3人が、火曜日にオランダに発つと言うのに、
私は月曜から金曜まで、授業でフィールドトリップに行くことになっていた。

道へ出ると、ウズベキスタン人の友達が、昨日のお別れパーティーの時と同じ格好で立っていた。
時間が止まっているようで、流れるように早いような矛盾した感覚に襲われながら、
大荷物を担いでくれている彼と、朝が始まりそうな空をぼんやり眺めた。

pyomn310.hatenablog.com


バスが定刻通りにやってきて、まるで私が見送られているみたいに別れた。
「See you soon」と言う言葉が、この時ほど切なく響いたことはない。
でも、友達の前では寂しい顔をしたくなかったんだ。だから、無理して笑って、バスの窓から半分乗り出しながら手を振った。

次にCiudad Colon に帰ってきた時には、彼らはいないんだよなあ。
イヤホンをしてなんとなく再生した音楽が、切ない音を奏でた。

やっぱり、寂しくて、少しだけ泣いて、眠った。

WATER

朝日は顔を出したかと思うとどんどん空高く高く登っていく。
バスはLa Fortunaという火山の麓の街をうねるように超えて、コスタリカの北部、Guanacaste(グアナカステ)に向かった。

1日目はAlajuera のQuesedaというところに位置するCODEFORSAというNGO団体に、森林再生プロジェクトや製材ビジネスについて話を聞き、湧水の近くの水供給用の設備を見学した。湿った森で雨に降られながら、靴を泥まみれにして歩いた1日だった。

その後Cañas に移動してプール付きの素敵なホテルに宿泊。
goo.gl


クラスメイトと競泳し(全勝した)、
晩御飯を食べにローカルな店に行き、
ちょっとしたおつまみを買って夜な夜な話そうと思っていたところに睡魔に襲われ10時に就寝。

翌朝は、5時に目が覚めたので、誰もいないプールで泳いだ。
鳥の声と朝焼けの空。サワサワと木が揺れる中、ただ水中にいることが心地よかった。

そして、バスに乗って遠いグアナカステに向けてさらに北上する。

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DRY PLAINE

グアナカステはコスタリカでも森林率が高い場所でありながら、農業や木材収集によって森林破壊が著しい地域でもある。

バスから車窓の景色は殺風景だった。
どこまでも続く平原を寂しそうに燕が飛んでいる。枯れ果てた葉をぶら下げた木が、1,2本佇む景色を横目に、砂埃を上げながらバスで駆け抜ける。

生物多様性や豊かな自然がシンボルであるコスタリカでさえも、
大規模なパーム油やパイナップルの生産のために土地を開拓し、森を切り開き、農薬や化学肥料で土が痩せてしまっている。
(それでも私たちはパイナップルを食べることをやめないし、コスメや安い洗剤を買うことを躊躇しないのだけど。)

乾燥熱帯林を保護するための団体を訪れて、どのように植林を行い森林を維持しているのかを学ぶ機会をいただいて、その重要性だけではなく、気の遠くなるような広い大地での重労働を身をもって感じることができた。


何度もカメルーンで目にしたナタ(Machette)を手にして、植林実験フィールドに行く。軽トラの後ろに乗って森を抜けていく。かつて神戸にて体験した農業でもこんなふうに軽トラに乗って除草剤と飲み水と一緒に担当する場所へ行ったなあ。そんなことを思い出しながら、乾燥したサバンナにたくましく生えている雑草たちを刈るべく、ナタを持って腕を左右に振った。手のひらには豆ができ、皮が剥けた。腕は筋肉痛である。

作業後に森の中で食べたArroz con Pollo (鶏肉の炒飯)が、なんだかすごく美味しかったのを覚えている。

何気ない話をクラスメイトとゆっくりして、一緒にご飯を食べて、どこまでも透き通る海でエイが飛び跳ねるのを見て歓声を上げた。
この数日間で、彼ら一人一人のことをちょっぴり深く知ることができたような気がした。

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FORESTRY

林業は、これまで触れたことがない未知の世界だった。
でも森林破壊の原因の8〜9割は大規模な農業だから、これまで興味を持って読んだり考えたりしてきたことにもリンクする。

特に熱帯雨林は、パーム油を筆頭にパイナップルやコットンの大規模栽培で切り開かれて、著しくその面積が減ってきているらしい。
夏に自然火災が森で起きるのも、森の面積が減ったことによる悪循環。

対して日本の森は数十年その面積を減らすことなく、むしろ微増している。
フィンランドやカナダなどの先進国も、森を豊かに所有し、その面積を減らすことなくキープしている。

日本で林業が盛んだった昭和に植えられた木々は、
今や立派な木材として使われるべきであるにもかかわらず、高齢化によって林業が衰退し、海外の安い木材を輸入しているのが現状なんだとか。

日本の木を切って木材として使うことは、まるで悪いことのように聞こえるけれど、
人工的に植林されてできた森は、ある程度木を切って使うことがとっても重要なのだ。

十分に地面に日光が当たり、下草が健全に育ち、土が豊かになるのですな。

逆に育った木を使わずに放置してしまっていると、土が緩くなり土砂災害が起こりやすくなったりと、人里にも被害が出る。

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・・・とまあ、何だか環境専攻の学生っぽい話をしてしもた。
日本の林業の現状についてわかりやすくまとめられたサイトはこちら>>>
www.shinrin-ringyou.com

「この木は何の木ですか?」
とっても大きくて、写真に収まりきらないその木の名は、グアナカステだった。
この場所の地名は、木の名前でもあったんだ。

どこまでも続く乾燥地帯の平原で、森の再生を試みる人々がいた。
その仕事は多くの人に見向きもされない、重労働で、時間のかかる、泥臭いものだ。

けれど木々の緑は人を癒すし、森が私たちを生かしてくれている。
空気も、水も、食べ物も、森がないと創られないから。

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